

≪醪造りの工程その7≫
酒母(しゅぼ)造り。酒母は酛(もと)とも呼びます。わかりやすく言うと、発酵のスターター。以前にもこの例えを使ったのですが、カスピ海ヨーグルトの種と同じ。友達から分けてもらったヨーグルトの種に牛乳を加えてやると、乳酸発酵してヨーグルトができる。その際の種と考えてください。
その酒母造りで大事なことは、元気の良い優良酵母を大量に培養すること。と言っても、もちろん研究室のような無菌状態で造るわけではないので、空気中の様々な雑菌が酒造りの邪魔をします。最悪の場合は、「腐造(ふぞう)」といって、雑菌に汚染されてしまうという事態も昔は多くの蔵であったようです。
じゃあ、どうするか、というと乳酸を添加することでpHを酸性に傾けて雑菌の繁殖を防ぐのです(速醸酛)。その他に、空気中にいる乳酸菌を繁殖させて造る生酛(きもと)系という造り方もあります。山廃もその系統。蛇足のようですが、酵母が乳酸存在下(酸性下)でも生きていけるからこその知恵です。
ところで、他の酒蔵では絶対にしない水麹造りとは、乳酸の代わりに『富士酢』を添加すること。目的はpHを下げることだから、理にはかなっているのですが、酒蔵に酢を持ち込むことは、腐造のリスクがあるために絶対にタブーとされています。
では、なぜ弊社では『富士酢』を使うのか。米酢独特の香りの成分を減らすためです。もともとウチの蔵に住み着いている酢酸菌はある香気成分をたくさんつくるのですが、それは乳酸由来であることがわかっています。よって、その香気成分を少し減らすことを目的としています(実は、私は大学院でその研究を2年間していたのでした)。
≪酒母用タンク≫
650リットル容のステンレスタンク。2日置きに酒母を仕込むので、何本も置いてあります。温度を調整するために電熱器やムシロで加温したり。
≪酵母のアンプル≫
(財)日本醸造協会から購入した『きょうかい酵母701』。昭和21年に長野の宮坂醸造(真澄ブランド)から発見された菌。タンク1本につき、このアンプルを1本。直前に水に溶いて使用。
≪麹≫
45時間かけて造った麹。
≪タンクに投入≫
それに『富士酢』を加えて。優良酵母を低温でじっくりと増殖させるため、10〜12℃くらいの温度に仕上げます。この状態で約2時間。麹の中の糖化酵素(アミラーゼ)を水に溶出させることが目的。
一麹・二酛・三造り。この酛(酒母)造りは2週間もかかる長丁場。雑菌にやられないように管理しながら優良酵母をじっくりと育てていきます。
五代目見習い 彰浩