「麹造りのことはわかったけど、その麹ってのはどういう風に使うのよ?」と言われそう。というわけで、麹の使い方を説明しますね。まず、その前にアルコール発酵について簡単に。お付き合いください。

アルコール発酵とは、簡単には「酵母による、糖→アルコールへの酵素反応」です。

例えば、ブドウ果汁(糖)→ワイン

    リンゴ果汁(糖)→シードル

などがポピュラーです。

では、日本酒はというと、残念ながら原料の米は果物のように糖をもっていません。その代わりに、デンプンをたくさんもっています。また、デンプンは分解すると糖になる。というわけで日本酒を造るには、

  デンプン→糖→アルコール

という、2つの変換をしてやる必要があるのです。そして、「デンプン→糖」の反応を担うのが、なにを隠そう、麹。

例えば、麹の使い方のひとつに甘酒があります。

麹と炊いたご飯と60度くらいのお湯を鍋に入れて、ひと晩保温しておくと、翌日には甘酒になっています。これは、麹(の中の糖化酵素)がご飯のデンプンをブドウ糖に分解したことを意味しています。デンプンは甘くないけど、分解すると甘くなるわけ。

さて、前置きが長くなりましたが、それを踏まえてご覧ください。

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≪麹を入れる≫

(ホンマは酒母というスターターの説明が必要なのですが、今回は割愛)タンクには井戸水と増殖した酵母(糖→アルコールの発酵を担う菌)が入っています。そこに、前日造った麹を投入しているところ。

この中に、蒸した米を入れると、麹が蒸し米のデンプンをブドウ糖に分解してくれます。そして、そのブドウ糖を随時、酵母がアルコールへと変換してくれるのです。

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≪温度を測る≫

その前に、大事な仕事。品温を測定します。というのも、同じ酒を造ろうとしても、日々、環境が違うわけです。水温に気温、米の状態などなど。それを把握して初めて、適切な仕事ができるわけ。この仕事がどのように関わってくるかは後ほど。

さぁ、米を入れていきますよ。

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≪蒸し上がり≫

この日も乾燥重量で700キロ近いコシヒカリを1時間半ほどかけて蒸しあげました。蒸し上がった後は1,000キロ以上? 米を蒸すことで、デンプンをブドウ糖に分解する準備ができます。原料処理のステップ。これをデンプンのα(アルファ)化といいます。まぁ、これはいいか。

また、高温で蒸すことで、いろんな菌も死んでしまいます。つまり、雑菌汚染されにくい環境ができたわけです。

この蒸し米、朝ごはん代わりに食べるのも楽しみのひとつ。美味いんだな。これは、酒蔵仕事の特権。ジャーで炊いたご飯よりも硬めで、歯ごたえがしっかりあります。酒造用語では、外硬内軟(がいこうないなん)と呼ぶ蒸し上がりを良しとします。

麹用の米が酒米(五百万石)なのに対して、蒸して使う米(掛け米)はコシヒカリを使います。その理由は、タンパク含量が多いため、旨み(アミノ酸)のある酢ができるというわけ。一般的な日本酒造りでは「雑味」と嫌われることの多いタンパク質、これが酢造りには欠かせません。ここが唯一といっていい、日本酒造りと飯尾醸造の酒造りの違い。

って、ホンマは他にも他の蔵とは違うノウハウがいくつもありますが。

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≪米を放冷機に移す≫

このポップな長靴は私のお気に入り。ミッキーとか、なんかのキャラクターっぽい?

それはそうと、酒蔵にいるときは、いつもこの仕事をさせてもらっています。アツアツでサウナ状態の蒸し米の上で、1時間ほどの作業。けっこういい運動になるのよね。初めてこの仕事をすると、ホンマにヘロヘロになります。コツを掴まないと大変。でも、楽しい仕事。

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≪放冷機≫

うちの酒蔵では数少ない機械。これは、蒸し米を均等にほぐし、均一で且つ望む温度に冷ましてくれます。手作業だと、どうしても温度が一定しないので、仕込み温度をピタッと合わせるためには大事な設備。

飯尾醸造では古い道具のみを使っているわけではありません。品質が維持もしくは向上できるのであれば、新しい設備も入れます。逆に、いくら省力化できるといっても、明らかに品質が下がるのであれば機械を入れることはありません。もちろん、財布との相談でもあるのですが。

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≪温度を測る≫

杜氏の藤本がもつのは温度計。その日の気温や仕込みタンクの品温などを考慮し、放冷機のベルトコンベアを進む米のスピードを調整しているのです。

例えば、今日は気温が高いからタンクの発酵温度が上がりそう。そうならないために、昨日よりも1度、タンクに入れる蒸し米の温度を下げよう、とか。

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≪櫂入れ≫

放冷機の先端にあるパイプを通って、仕込みタンクに大量の蒸し米(掛け米)が投入されます。タンクの底で塊にならず、均一に水を吸うように。

この蒸し米が麹のもつ糖化酵素によって糖へと分解され、それを酵母がアルコールへと変換するのです。

ひとつのタンクで、

 デンプン→糖

 糖→アルコール

の2つの反応が同時並行的に起こる、世界で唯一にして最も高度な発酵方法。これを並行複発酵と呼びます。この発酵方法があるからこそ、日本酒は世界で最もアルコール度数の高い酒(約17〜20%)になるのです。

テキーラとかウォッカとか、他にもアルコール度数90%以上の酒もあるやん、って? それは蒸留しているから。日本酒は、間違いなく世界中の醸造酒の中で最もアルコール度数の高い酒です。

ワインの品質が葡萄(原料)の良し悪しに大きく左右されるのは有名な話(だからヴィンテージ、つまり醸造年度で価格が違う)。対して、日本酒は原料の品質の他に、杜氏の技術や蔵の考え方が味わいに占める割合が大きいのです。

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≪翌日≫

原料を全部、投入して1日経つと、蒸し米が表面に上がってきます。この米が麹の力で少しずつ少しずつ融けていくのです。

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≪2週間後≫

さらに時間が経つと、このように表面がムース状に変化しています。そして、原料を3回に分けて(添・仲・留)投入後、約20日で酒のできあがり。洗米して麹を造り、酒母を造ることから考えて約40日。飯尾醸造では、年によって違いますが、10本〜20本ほどを仕込みます。

この酒はすべて純米富士酢の原料。私たちも飲むことはできない酒。日本で唯一、誰にも飲まれない酒を造っている蔵。ちなみに、この酒が純米富士酢になり、瓶詰されて皆さんの食卓に届くのは早くて2年後、おそらく3年近くかかるのでした。

                   五代目見習い 彰浩