10月1日(土)、3年振りに世界シャリサミットを開催しました。

お陰様で晴天に恵まれ、世界中から江戸前鮨職人のみなさんが宮津に来てくださいました。
ロンドンから2人、クアラルンプール(マレーシア)からも。本当はサンフランシスコからも来られる予定が、残念ながらパスポートが切れていたらしいです(笑)ドンマイっ!

では、どんなイベントだったかをお伝えします。

まずは、江戸前シャリ研究所の所長であるわたくしめから、「酢飯を科学する 2022」と題して説明しました。

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続いて、NHKプロフェッショナルで魚の仲買人として特集された、さかな人の代表である長谷川大樹さんからは、「江戸前鮨職人のための魚の基礎知識」について、質問形式でお話しいただきました。基礎知識といっても、もちろんプロ中のプロたちが知りたいことなので、かなり深い話でした。
質問が止まらず、途中で止めざるを得ない状況に。

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続いては、日本包丁研ぎ協会の代表である藤原将志さんから、「包丁を研ぐために知っておくべきこと」について、ご説明いただきました。
料理人にとっても、正しい研ぎ方や砥石の使い方を習ったことのある人はほとんどいないようです。藤原さんのお話は目から鱗が落ちる、そんな時間だったと何人もの方から聞きました。

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3人の講演の後は、江戸前鮨まわりのトップ生産者さんがブースを出展してくれました。
日ごろ、仕込みに追われて新しい食材に触れることが難しい職人さんにとっても、大きな学びの時間だったようです。

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本日のメインイベント、3人の鮨職人さんが目の前でシャリ切りを披露してくださいました。

まずは札幌から姫沙羅の田中親方。

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土鍋を使って固めに炊いたご飯にはおこげができます。
だからこそ、シャリに使うご飯の重さを計量してから、お酢の分量を決める丁寧な仕事。

また、酢をまわしてからもできるだけシャリを切らず、宮島(しゃもじ)を返すように酢をご飯になじませていく切り方でした。

さらに、シャリ切り後はしっかり冷ましてから、超高温の保温器にて短時間だけあたためるようです。この操作によって、保水用の砂糖を使わずともシャリの劣化を遅らせ、米粒表面をシルキーに保つことができるとのこと。

私が親方の仕事に関して感じたことは、何事においても柔軟に試してみる姿勢のスゴさでした。シャリ切りだけでなく、スチームコンベクションオーブンや特殊な冷凍庫の導入、シャリ酢の配合など、とにかく試行錯誤の連続で、今のお店をつくり上げてこられたことを知りました。

続いては、海なし県である長野にあるすし崇、久保さん。

今回の講師の最年少ですが、過去2回のシャリサミットにもご参加いただいています。
久保さんの鮨を食べたら、もう海がないことはハンデにはならないことを知ることができます。

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ご本人曰く、「ボクはシャリを切りません」。

参加者のみなさんはポカン状態でしたが、このシャリ切りは江戸前鮨業界にとって、ひとつの新しい扉だと思いました。
過去のシャリサミットに参加したことがヒントになって、この手法を編み出したとか。

最後は、東京のすし喜邑、木村さん。

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3回連続で講師をお願いしている職人さんです。

過去のシャリサミットに参加された職人さんは、シャリ切り哲学の変化にびっくりされたはず。数年前に美味しいと思っていたことを超える仕事を常に模索されています。

3人の講師に共通することは、

  ・鮨が好き
  ・常に現状を疑う
  ・賛否両論を怖がらず、自分のモノサシをもち続ける

ことだと思いました。

ここからは、会場を飯尾醸造の直営イタリアンレストラン acetoのテラスに移して、実食の時間です。

姫沙羅の田中親方は、あえて冷凍したマグロの中トロを。
冷凍してもドリップが出ない、つまり味わいを損なわないため、冷凍と気づく人は少なかったのでは?

他にも、あえて冷めたシャリの美味しさを感じてもらう目的で太巻きを用意されていました。
こういう参加者に寄り添ったネタ選びに懐の深さを感じます。

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すし崇の久保さんは春子鯛の黄身おぼろ漬け。

小肌と並んで江戸前の仕事を披露いただきました。
3人の中でいちばん赤酢の割合が多く、塩味もしっかり効かせたシャリでしたが、ネタの塩味を調整し、黄身おぼろの甘さにとってバランスのとれた鮨に仕上がっていました。

もうひとつは煮帆立。
低温で火を入れてしっとり食感にした帆立に塗る煮切りも、ハマグリを開けたときに出る体液を1,000個分集めてつくった貝の出汁を煮詰めたものとのこと。

まさに魚を旨くするから鮨。

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すし喜邑の木村さんは筋子。

ベタ塩をして熟成させた筋子の塩味のおだやかさにびっくりされたはず。
脱塩処理によって、魚卵の旨みを引き出しつつ、シャリとのバランスを考えられた鮨でした。

他に、アオリイカを透けるような極薄にスライスしてから、さらに千切りにしたネタを塩で。
イカの甘みとシャリの味をダイレクトに感じられる繊細な握りでした。

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これで終わらないのが、世界シャリサミット。

参加者のみなさんには五感をフルに使って鮨を学び、体感したことをご自身のお店に持って帰ってもらいたい。この精神から第一回のときに木村さんが考案されたのがセルフ握りコーナー。

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3人の講師が切ったシャリ、手当したネタとワサビ、煮切りを使って、参加者はセルフで握ることができます。

もしかしたらこれが世界シャリサミットのメインコンテンツかもしれません。
通常、他の職人さんが切ったシャリを触れる機会はありませんので。

ここでは誰もが平等に鮨に向き合います、先輩後輩も、国籍や人種もありません。
ただひたすらに鮨に向き合う人だけが体験できる時間。

13時から始まり、あっという間に18時を過ぎたら、第二幕。
鮨屋だらけの懇親会です。

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緊張感のあったサミットから打って変わって、交流会では和気あいあいと楽しんでいただきました。

3人の講師の方々、ご参加いただいた鮨職人のみなさま、基調講演いただいたお二人、ブース出展いただいた生産者の方々、本当にありがとうございました。

ちなみに、シャリサミットの舞台裏はこんな感じ。

acetoスタッフ3人含め、飯尾醸造のスタッフ全員が主体的に動いてくれたおかげで、大きなトラブルなく終えることができました。お疲れ様でした。

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最後に。

もっと知りたい、もっと聞きたい、もっと食べたい、もっと握りたい。
時間が短すぎるとか、ご不満もあったかと思います。

ただ、世界シャリサミットは、あくまできっかけだと考えています。
たった1日で、しかも受け身で手に入れられる情報には限りがあるわけで、その先はあなたの行動次第。ちなみに、講師を務めてくださっている3人の方々が口々に、学びがあったと仰います。さらに上を目指してもがいておられるわけで。
ご参加いただいたすべての方にとって、未来につながる時間でありますように。

そして、飯尾醸造の全スタッフにおいても、このイベントがなにかのきっかけとなってくれることを願っています。

私にとって、このサミットは2015年から吹聴してきた「2025年に丹後を美食の街に」のメインコンテンツです。
いつか世界中から「日本の丹後という場所はシャリの聖地らしいよ」と思ってもらえるよう、少しずつ進めていけたらと考えております。

この長文を最後までお読みいただきましたみなさまに感謝を申し上げると共に、江戸前鮨を食べたくなった方には手巻きすし酢をおススメします(笑)

手巻きすし酢  16年かけてつくる甘くない江戸前鮨専用のすし酢。

握るのは難しいという方には、海鮮丼やマグロ丼にお使いください。
って、最後は宣伝ですいません。

五代目 彰浩