≪由良ヶ岳≫
酒蔵のある場所は、「丹後由良」と呼ばれ、古くは百人一首で、
由良の戸を 渡る舟人 梶を絶へ 行方も知らぬ 恋の道かな
と詠まれた地です。他にも、「山椒太夫」(「安寿と厨子王」という場合も)の小説の舞台にもなりました。
今日は快晴で、蔵の裏口の扉をばぁーんと開放すると、こんな気持ちのいい景色が飛び込んできます。とはいえ、今晩からは雪が降るようです。やっと例年のような厳しい寒さがやってくるかと安堵しております。
さて、今朝も酢蔵から車で10分のところにある酒蔵に行ってきました。ちょうどええタイミングで新米のコシヒカリが蒸し上がったところ。
≪蒸し上がり≫
杜氏の藤本がゆっくりと蓋を上げていくと、湯治場を思わせる豪快な湯気と共に、しっかりと蒸し上がった米が姿を現します。米作りに携わっているからこそ味わえる、冬場の小さな感動的瞬間。
≪蒸し米≫
この写真を見ていただくとなんとなくわかっていただけると思うのですが、米粒が立っています。炊飯ジャーで炊くと粘りがしっかりあるはずなのに・・・。おかしいと思われた方、酒造りでは米は炊かずに蒸すわけですが、「外硬内軟(がいこうないなん)」という言葉のとおり、外側は硬く、内側は軟らかい蒸し上がりがいいとされています。
普段食べているご飯はしっかりと粘りがあった方が美味しいとされているのは、ミルキークィーンのように、うるち米と餅米を掛け合わせた品種があることからも明らかです。杜氏や蔵人は蒸しあがるとすぐにひと口、その日の良し悪しをチェックします。私も同様に。
・・・
うん、個人的には上出来やったと思います。
では、酒造りではなぜ米を蒸す(熱を加える)のでしょう。理由は大きく2つ。
1.米(穀物)のデンプンを酵母が栄養にできる形に(糖化)するため
2.米粒を殺菌するため
2.は加熱するため、明らかですが、1.をもう少し詳しく説明します。と思ったけど、最近はフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』という便利な辞書があるので、こちらをご参照ください。「糖化」については、こちら。
ひとつだけ補足すると、昔からアジア圏では麹が、欧米では麦芽が使われてきました。そのため、日本酒、焼酎などとビールなどでは糖化法が異なります。
最後に・・・
「糖化」に興味をもたれた方はぜひ今晩、こんなことを試してみてください。
【用意するもの】 ご飯、以上
【実験】 ご飯を口に入れて、ひたすら噛み続けてください。飲み込むのを我慢して5分ほど噛んでいると、だんだんと甘くなってきます。これは口内の糖化酵素(アミラーゼ)によって、デンプンが分解された証拠。古代の日本には、「口噛み酒」といって、口内で糖化させたお米を使った酒造りが行われていたそうです。
でも、ぐちゃぐちゃと何分も噛んだご飯を一度、ぺっと外に出して造られた酒、現代では飲む方も勇気が要ります。その酒を使って造った「富士 口噛み酢」新発売!
・・・誰も買ってくれなそう・・・。
五代目見習い 彰浩
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