田吾作寿司の後は車で15分ほどのところにある、武蔵野うどん、エン座に。

フードジャーナリストのはんつ遠藤さんに連れて行ってもらいました。このお店はこの本に掲載されているのだと思います。いや、もしかしたら、こちらこちらかも。とにかく、私にとっては素晴らしい出会いでした。はんつさん、ありがとうございました。

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≪外観≫

この外観だけで、このお店の志が伝わってきます。というのは・・・

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≪地元の小麦粉を使用≫

土日は地元で栽培された小麦粉、農林61号のみを使っているそうです。ご主人の話では、農林61号はASW(オーストラリア スタンダード ホワイト)や、さぬきの夢2000に比べて弾性が弱いため、単独で使われることは少ないようです。もちろん、それ以前に栽培量が少ないのですが。

なんでも、武蔵野周辺ではずっとずっと昔からお祝い事などのときには必ず家庭でうどんを打って食べていたそうです。讃岐とは違う、うどんの文化があったのだとか。「その背景には、高地であるが故に水稲栽培ができず、その代わりに陸稲や小麦など、水をそれほど必要としない穀物が栽培されていたことがあります」とご主人。

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≪メニュー≫

思ったよりお手軽価格。こんなんで大丈夫なのか、心配になるような価格設定です。

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≪季節のみぞれ糧盛り≫

冷たいうどんをあったかいつけ汁でいただく、いわゆるつけ麺。糧(かて)とはおかずのことだそうです。武蔵野では季節ごとに収穫した野菜を入れて食べていたとか。もちろん、汁に化学調味料などは使ってありません。出汁と返しを別々に作っているわけではないようです。

うどんはご覧の通り、真っ白ではなく色がついています。これはおそらく精麦歩合というか、削る割合が少ないため。米で言うと五分搗き、七分搗きのイメージでしょうか。淡い紫色の麺は紅芋が使ってあるそうな。手に入れやすさから想像すると紅あずま?

うどんはつるつる具合と噛み応えがかなりしっかりしています。これぞ手打ち、という食感。農林61号という品種自体の特徴でもあるようです。ザルからちょっとだけ見えている、太い麺は手打ちの証とか。この端っこはオマケの意味もあって、運がよければ入ってくるのだそうです。

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≪大根下ろしのつけダレ≫

大根を下ろしたときに出る汁に出汁醤油を足したもの。これは生理学的にすごく理に適っている食べ方だと思います。大根の汁に含まれるアミラーゼ(ジアスターゼ)は消化を助けてくれます。しかも、65℃以上の高温になるとタンパク質の構造が変化(変性)するため、冷たい状態、もしくは温かい麺を冷たい汁で食べるのに適している模様。しかも、この大根は三浦産の練馬大根だとか。この食べ方、すごく気に入りました。美味しい。

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≪豆乳うどん≫

これはメニューにないそうですが、自家製の豆乳をかけた上に出汁醤油で。サイドメニューに豆乳があるので自分でドンブリに入れれば食べられるのかもしれません。豆乳には少量のニガリが入っているのか、不均一なゲル状です。豆乳と豆腐の中間のような口当たり。これだけでも美味しい。はちみつ入り紅芋酢をかければ、デザートにもなります。

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≪煮こごり≫

出汁を寒天(ゼラチン?)で固めてあります。これはもっとゲル状の方が麺に絡んで、より美味しくなるかもしれません。

他にも、釜揚げもいただきました。温度の違いによる食感の劇的な変化にびっくり。冷たい麺のときは、つるつる、しっかりの噛み応えだったのに対して、温かいときはふわっふわ。この食感の違いは熱による小麦粉の変性によるものでしょうか。それとも、農林61号の品種によるものでしょうか。

ちなみに、宮津のこんぴらうどんでは、麺を作る際に富士酢を加えてらっしゃいます。オヤジさんの話では、「富士酢を入れるとコシはあるのに硬くなりすぎない食感が生まれる」とのこと。私の想像では、釜で茹で上げる前に酢の酸によって小麦粉の組織が変性することで、温度による食感の変化(小麦粉の変性)が多少なりとも抑えられているのでは、と。これは、ラーメンの麺でも同じようなことが言えるはず。ご存知の通り、ラーメンの麺には、かん水が使われています。かん水は炭酸カリウムや炭酸ナトリウムであり、強アルカリ。麺を打つ際にpHを中性からアルカリ性に傾けることで独特のコシを生み出しているはず。その意味において、うどんに酢を入れること(中性→酸性)と同様の働きがあるのでは?

と、ズブのシロウトの考察です。さて、どれもワクワク、楽しみながらいただいたのですが、最も私の好みにドンピシャだったのがこれ。

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≪ひやあつ≫

「ひやあつ」とは、冷たい麺に温かい汁をかけたもの。私にとっては、この温度帯における食感が最も素晴らしかったです。これをもう一回食べてみたい。

ご主人の思いは、地元・武蔵野、小麦の農家さん、そしてもちろん、うどんへと向けられています。それはそれは、「ひやあつ」どころか「あつあつ」よりも熱いものだったのでした。その思いをお客さんと分かち合うことに喜びを感じていらっしゃるようでした。素晴らしいお店でした。ぜひ食べに行ってみてください。尚、営業時間や麺の量が限られていますので、なるべく早い時間帯に行かれることをおススメします。

エン座

東京都練馬区石神井台8-22-1 第一サンライフ105
電話:03-3922-0408
定休日:月曜日・第一火曜日
営業時間:11:30〜14:30
土曜日のみ、夜は予約営業をされているようです。
(18:00〜20:30ラストオーダーまで)

                      五代目見習い 彰浩