数年前、私が「関西スパイス番長」だった事実、ほとんどの方はご存じないと思います。

東京カリー番長であり、東京スパイス番長のひとりでもある水野さんに、「京都に行くから一緒に飲まない?」と誘ってもらった夜のこと。彼の関西カレーつながりの面々と深夜まで飲みながら、「関西でもスパイス番長のグループをつくろう」と盛り上がり、私もその4人の1人に誘っていただいたのでした。

とはいえ、スパイスのスの字も、というか「酢」の字しかわからない私。大阪での集まりにもなかなか参加できず、(香りと共に?)飛んで消えてしまいました。

前談が長くなりましたが、今回紹介するのは、カレーブック 女川カレー。これでつくったカレーがこちら。

女川カレーブック2


≪昭和な黄色のカレー≫

老若男女に受け入れられるような、カドのないカレー。「日常の小さな幸せ」の好例にもなりそうな、なんてことない味です。

それなら、なぜ、お気に入り食材図鑑で紹介するのか。

私がカレーをつくるときのルールはただひとつ。市販のルーは絶対に使わない。
かといって、スパイスひとつひとつ調合できるほどの知識や経験、実力もないわけで。

普段はカレーボトル ホワイトガラムマサラを使って、なんちゃってインドカレーを作ることも多いのですが、昭和なカレーも実は好き。鳥煮込みそばで有名な六本木 香妃苑のカレーとか。

さて、この女川カレーを考案したのは、カレー界に新たな潮流を生んでいる東京スパイス番長の1人、アナン・メタ・バラッツ氏。

バラッツ氏


≪バラッツ氏≫

鎌倉にあるスパイスの老舗、アナンの次期当主というと、知っている方も多いのでは。

このカレーが生まれたきっかけは東日本大震災。壊滅的な津波被害を受けた宮城県女川町の避難所で、バラッツ君たちがカレーの炊き出しをしたこと。彼らがすばらしいのは、炊き出しだけではなく、女川でこのカレーブックの製造・販売までを事業化したこと。炊き出しの先を見すえたボランティアの精神とその戦略に感動しました。

女川カレーブック


≪女川カレーブック 650円≫

夏休みに紹介した理由は、親子で一緒に作ってもらいたいから。正直、大人には辛さはスパイシーさは少し物足りないと思います。そのぶん、小学生の子供たちや年配の方にはドンピシャかも。

マスール豆っていうオレンジ色の豆の食感が本格派な香り。胃腸に負担がかからないように、消化にいいお豆のカレーを選んだのだとか。

また、作るのが楽しい。これ、子供たちはテンションあがるはず。

写真のとおり、カレーブックを開くと、いくつかの袋に分かれてスパイスが入っています。まずは鍋に油を入れたら、クミンシードとローリエの入ったスパイスAを入れて、じくじくと香りを引き出す。具材を炒めたら、また別のスパイスを入れて煮込む。最後にまた別のスパイスを。

と、手軽な割に、ホールスパイスを使うところや、入れるタイミングなど、本格派の香りがプンプン。カレーブックの名のとおり、学べるカレー。

ぜひ親子で作ってもらいたい理由がもうひとつ。東北に想いを馳せて食べてもらいたいのです。2年前の3月11日のことを風化させないためにも。震災に遭った現地の人たちが今、このカレーブックを作っていることも伝えてもらいたい。

この幸せの黄色いカレーが親子の団らんの一助になるといいなぁと思って紹介しました。

女川カレープロジェクトのサイトはこちら

        五代目 彰浩