お世話になっております。
蔵人の三原です。

冬の夜は良いですね。
静かで落ち着きます。
蛍雪の功などと言うと盛りすぎですが、読書などしておりましても集中が高まり、より身になる気がいたします。

特に夜の何がいいって、横になって寝ていても、仕方ないねで済ませてもらえる所です。
朝や昼ならいつまでダラダラ寝てんねんと叱られますが、夜なら寝てていいのです。
だって夜だから。
落ち着いて安心して眠れるって幸せですね。
でもなんで朝昼寝てたらダメなんでしょうか。
謎ですね。
分かりませんが大事な仕事があるので、私は毎日根性で起きています。

夜といえば、先日、夜の由良蔵の周りを徘徊いたしまして、こんな写真が撮れました。

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由良蔵の裏手に京都丹後鉄道が走っておりまして、タイミングよく列車が来た時に撮ったものです。
光が流れて、まるで銀河鉄道のようです。
私もどこか遠くへ旅したい気がします。

さて、夜に徘徊したのは別に酔っ払っていたわけではありません。
思い出作りであります。

実はつい数日前から、由良蔵では試験的に泊まり込みをやめました。
新設備の導入や、業務スケジュールの改変により、可能になったものであります。
問題なく継続できるかはまだ何とも言えませんが、とりあえず毎日家に帰れるようになりました。
そのため、もう泊まることがなくなるかもしれないので、夜の蔵をぶらぶらしたのです。

泊まり込みをなくせたのは、酒母室の存在が大きく思います。

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大きなタンクで仕込む前に、小さなタンクで酵母菌を増やすのですが、それを酒母といいます。
この酒母という子が、放っておいたらがんがん発酵が進んでしまい、お酒を仕込む前に力尽きてしまうのです。
人で言うところの燃え尽き症候群のようなものですね。
後先考えず、自分の身を省みず頑張り過ぎるので、落ち着かせてあげる必要があるのです。

つまり、温度が上がり過ぎないよう冷やすのです。
寒くても暑くても元気がなくなるのは三原と同じですね。
因みにかつてはどうやって冷やしていたかというと、こちら。

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暖気樽(だきだる)です。
これの中に凍らせたペットボトルを入れ、酒母に入れることで温度を下げていたそうです。
2020年の投稿ですが、インスタグラムの方で今井と市川が踊りながら作業している様子がアップされております。
あれを夜間と早朝に行っていたそうな。
愉快気ですが、話を聞く限りテンション上げなきゃやってらんなかったんだろうなあと思います。

なんで伝聞形式かというと、実は私はあの作業をしたことがないのです。
幸いにも、昨年は寒くて暖気樽を使う必要がありませんでした。
今年は酒母室が出来たため、暖気樽に頼る意味がありません。
特に今年なんて暖かい日が多く、もし酒母室が無ければ、泊まりをなくすのは現実的ではなかったかもしれません。
もしかしたら、三原のくせに寒い日の方が大好きになっていたかもしれませんね。

酒母室は、言うなれば大きな冷蔵庫でして、部屋の中を低音に保っています。
おかげで酒母が熱くなりすぎず冷めてくれるのです。
とはいえ、いい感じに発酵してもらうため、要所でヒーターで加温する必要はあるのですが。
酒の母という割に、子供みたいに手がかかりますね。

…今のは失言でした。
母とは感謝し労るもの。
ぞんざいに扱っても許されると思うなど、それこそ子供の甘えですね。
以後気をつけます。



夜の蔵には独特の雰囲気があります。
ぷちぷちしゃわしゃわとお酒が発酵する音、夜間も稼働させている機械の鈍い動作音。
人声の絶えた中でそれらが際立って響き、日中では気付けない何かの気配を感じます。

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先輩蔵人の今井は座敷童を見たことがあるそうです。
私は見たことがありませんが、思えば何かいたような…
今でもまだいるのでしょうか。
蔵人のいない夜中の酒蔵で、元気に走り回っているかもしれませんね。

蔵人 三原